哲学者=山崎行太郎のブログ『毒蛇山荘日記』

文芸評論家。哲学者。慶應義塾大学大学院(哲学)修了。東工大、埼玉大学教員を経て現職。著書=『小林秀雄とベルグソン』『小説三島由紀夫事件』『保守論壇亡国論』『ネット右翼亡国論 』『曽野綾子大批判 』『エセ保守が日本を滅ぼす 』『最高裁の罠 』など。『マルクスとエンゲルス』を「月刊日本」に連載中。近刊予定に『小説・南洲伝』『 小林秀雄とマルクス』『毒蛇山荘日記(1 ) 』など。

(学生必読) ■小林秀雄と宮本顕治(5)

(学生必読)
小林秀雄宮本顕治(5)

小林秀雄は、マルクス主義、ないしマルクスの言う「共産主義」を信奉す共産主義者共産党員等を前に全力で闘っている。革命前夜とも言われたマルクス主義全盛の時代に、孤軍奮闘の厳しい闘いを強いられている。この闘いの歴史と成果が、「小林秀雄的批評」にほかならない。その時 、切り札として使ったのが、『様々なる意匠』の中の次の言葉である。小林秀雄の殺し文句は、以下である。
〓〓〓〓以下引用〓〓〓〓
《凡そあらゆる観念学は人間の意識に決してその基礎を置くものではない。マルクスが言ったように、「意識とは意識された存在以外の何物でもあり得ない」のである。或る人の観念学は常にその人の全存在にかかわっている。 その人の宿命にかかわっている。》(『様々なる意匠』)
〓〓〓〓引用終了〓〓〓〓
この小林秀雄の文章が、すんなりと理解できる人が何人いるだろうか。おそらそう多くはないだろう。しかも、小林秀雄は、マルクスの言葉を使って 、マルクス主義者たちを批判しているのである。「意識とは意識された存在以外の何物でもあり得ない」は、『ドイツ・イデオロギー 』の中の言葉である。このマルクスの言葉を、小林秀雄は、正確に理解した上で、使っている。意識、あるいは思想や理想は、「意識された存在」、つまり思い描いた観念、頭の中で考えた空想でしかない、と。ここで 、小林秀雄が批判しているのは、マルクス主義者や共産主義者だけではない。保守主義者も右翼民族主義者も、芸術至上主義者も大衆文学至上主義者も、およそあるゆる「主義者」の思想を、「観念論」として批判しているのである。むろん、小林秀雄は、あらゆる思想を批判しているわけではない。では、小林秀雄が認める思想とは、どんな思想か。それが、次の言葉だ。
《 或る人の観念学は常にその人の全存在にかかわっている。 その人の宿命にかかわっている。》
小林秀雄は、「その人の全存在にかかわいる」ような思想 、「その人の宿命にかかわっている」ような思想は、認めている。つまり、本を読んで習い覚えたばかりの思想、大学で習い覚えたばかりの思想、あるいは外国留学で習い覚えたばかりの思想・・・というような、時間が経つとすぐにメッキが剥げてしまうような思想を、ホンモノの思想と選別し、厳しく批判しているのだ。
小林秀雄の「マルクス主義批判」と前後して、マルクス主義マルクス主義者たちの転向・崩壊・壊滅が始まるが 、それに、小林秀雄の鋭い「マルクス主義批判」が大きな影響を与えたことは間違いないが、しかし、それがすべてではない。政府・権力側による「弾圧」によって、マルクス主義共産主義 、あるいは共産党は、衰退と壊滅を余儀なくされたというのが、歴史的経緯である。しかし、それが歴史的事実としても、小林秀雄の「マルクス主義批判」を、軽視は出来ない。

(続く)




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